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映画 Archive

第83回-拍手の起こる映画

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かつてこのブログに映画『丹下左膳余話・百萬両の壺』('35年・日活)のことを書いた。「私は映画館で、あれほどまでの歓声を聞いたことがない」、「満員の場内、全員が拍手。立ち上がって、スタンディング・オベーションをしている者までもいる。私ももちろん、力の限り拍手をした」-実はこの映画に対して拍手をしてしまう感情というかトリガーというかは、実はエンディングの一瞬にかかっているのではないかと考えている。

この『丹下左膳余話・百萬両の壺』がまさにそうなのだが、他には川島雄三の代表作『幕末太陽傳』('57年・日活)や、成瀬巳喜男の『秋立ちぬ』('60年・東宝)など、それまで積み上げてきた物語と人物像のパワーや感情がピークに達し、さらに意外な展開を見せ、余計な余韻や説明なしに「スッ」と終わる。「もう、これは拍手するしかないな」という演出、編集があるのだ。

(逆に劇中では大感動してもエンディングでハズしてしまう映画もある。去年話題になった『カメラを止めるな!』はそこが残念だった。本当に面白い映画だと思ったが、ラストショット~エンディングが締まらず、拍手のタイミングを逸してしまった…)

最後の最後に強烈な一言が来る映画もある。近作ではリドリー・スコットの『オデッセイ』(2015年)がそうだろう。さらにラストシーン、ラストショットが爆笑を呼びこらえきれずに拍手してしまう映画もある。例えば'97年の『フル・モンティ』がそうだ。
しかしこの「最後の最後に強烈な」映画は、その詳細が説明出来ないのが残念だ。そこを詳しく書くのは絶対にやってはいけないことなので…。

さて、なんで突然こんなことを書いているかというと、まさに今日、アカデミー賞作品賞を獲った『グリーンブック』がその「最後の最後に強烈な一言」という作品だからだ。日本公開は今週末3月1日の金曜日なので、それこそ詳細は書けないが、「とても『オデッセイ』に似ていた」とだけ書いておこう。

この作品、去年の秋にネットで見つけてレギュラーで映画評を書かせてもらっている雑誌JAZZ JAPANに推薦。「日本公開が決まったらレビューを書きたい」と数ヶ月前から注目していた一本なのだ。
あまりにも重厚な『ローマ/ROMA』に圧されて、作品賞は無理かと思ったが最後の最後に大逆転(?)。見事作品賞に輝いた。どんな映画、どんなエンディングかは、ぜひ映画館で。よろしければ最後の一言で拍手を!

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第76回-国民的俳優と映画の国際性-その2

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面白いと思うのは韓国人女優、ペ・ドゥナの活動だ。彼女を最初に観たのはかなり古く、もう15年前、2003年だった。ポン・ジュノ監督の長篇デビュー作『ほえる犬は噛まない』を日本公開早々に観に行き、当時二十歳ちょっとだったペ・ドゥナを知った。あの映画、ペ・ドゥナも良かったがそれ以上にうだつの上がらない大学の非常勤講師を演じたイ・ソンジェの印象が強烈で、「かわいい女優がいるな」くらいの印象だった(イ・ソンジェがブラインドを閉めるラストシーンは秀逸)。

ペ・ドゥナを凄いなと思ったのはその次の『子猫をお願い』(日本公開2004年)だ。映画自体も傑作。ペ・ドゥナも骨のある演技で実に良かった。当時世界的に巻き起こっていたガーリー・ムーヴィーに対する韓国からの完璧な回答。また舞台が空港と港の町、仁川というのも良かった。私の出身地である蒲田、羽田付近に通じる空気感があり…というようなレビューを当時ある雑誌に執筆した。

そして彼女は海外の映画に出演することになる。2005年の日本映画『リンダ・リンダ・リンダ』、2009年に同じく邦画の『空気人形』、そして2013年には4ヶ国合作の『クラウド・アトラス』。
いずれも映画館で観たが、なんというか、映像作家ならば「存分に使ってみたい!」というキャラクターなのだろう。その魅力は何にでもなれる素材としての素晴らしさだと見た。日本に留学した女子高生役もあれば魂を授かってしまったラブドールなんて難役にもハマル。『クラウド・アトラス』では22世紀の女神を演じ、その直後、2015年の『私の少女』では化粧ッ気のない田舎の婦人警官まで(『グエムル』の時のアーチェリー選手役も良かった)。
実は彼女は身長が170cmを超えており、スタイルも抜群。先頭の写真はヴォーグ・コリアの表紙だが、Louis Vuittonのモデルを務めたときの写真も載せてしまおう。

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ただ正直なところ海外作品ではまだ決定的な作品には出会っていないような気もする。いま挙げた中では『子猫をお願い』と『空気人形』が良かったが、いやいや、まだまだ。個人的にはスパイク・ジョーンズかソフィア・コッポラあたりの映画に出演して欲しいとも。

今回、このブログを書くためにかなりの量のペ・ドゥナの写真を見たが、雰囲気的に水カンのコムアイや市川実日子に似ていると思った。「こんなに世界中から声のかかる女優がいるなんて韓国映画界は羨ましいな」と思ったが、ペ・ドゥナと市川実日子は年齢が1つしか違わない(ペ・ドゥナがひとつ下)。身長やスタイルもほぼ同じだ。ペ・ドゥナがあそこまで重用されるならば、市川実日子も…。

第75回-国民的俳優と映画の国際性-その1

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音楽関係の記事が続いたので久々に映画関係。

色々な国の映画を観ていて痛感するのが、「どんな国にも名監督、名優がいるなぁ」ということだ。アタリマエのことだが、アメリカの娯楽映画と少々の邦画にばかり漬かっているとうっかり忘れてしまう。そして名監督は国際的な映画祭で名誉ある賞を受賞し、名優は他国の映画に客演し、強烈な印象を残す。

それを痛感したのは20年以上前に観た『史上最大の作戦』('62)だった。ノルマンディ上陸作戦を描いたこの映画、当然のごとく英米独仏が入り乱れた人間ドラマになる。米軍にはジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ、ロバート・ミッチャムが、英軍にはショーン・コネリーがいる。終戦から17年しか経っていないこの時に、アメリカ映画の大作でドイツ軍を誰が? ドイツ陸軍西部軍参謀総長を演じたのは名優クルト・ユルゲンスであった。ハリウッドにジョン・ウェインがいれば、ドイツの映画界にはクルト・ユルゲンスがいる。納得のキャスティング。この二大名優の共演には感服した。

クルト・ユルゲンスはミュンヘン郊外で生まれたドイツ人だったが、大戦中はナチス批判を理由にハンガリーの強制収容所に入れられていたそうだ。大戦後に解放されオーストリア国籍を得ている。もっとも『史上最大の作戦』で彼を語るのは片手落ちだろう。その5年前に、潜水艦映画の傑作『眼下の敵』('57)演じた独軍Uボート艦長こそユンゲルスの名前を世界に知らしめた名演。この時の米軍駆逐艦長役はロバート・ミッチャムであった。

戦後の戦争映画の名作を語るような文章になってしまったが、このように国際的なシナリオ、配役には、ちゃんとハマリ役となるその国の名優がいて、名演をフィルムに焼き付ける。

我が日本にも戦前の数々のハリウッド映画、日独合作の『新しき土』('37)やサミュエル・フラーの奇作『東京暗黒街・竹の家』('55)、『戦場にかける橋』('57)に出演した早川雪洲がいる。'49年の『TOKYO JOE』ではハンフリー・ボガードと共演。そのタイトルはブライアン・フェリーの有名曲になり、フュージョン時代の渡辺香津美(g)と坂本龍一(key)がカヴァーもした。

いつ終わるんだろう? この文章(苦笑)。本当はアラブ圏やヨーロッパ、アジアのことが書きたいのだが…とりあえずここまで。次回に続く。

第70回-年末に観るほっこり映画・その2

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うううむ…「年末に観るほっこり映画・その1」というタイトルで11月に前回を書き、12月に「その2」をと考えていたが、さすがに年末は忙しく見事に年が明けてしまった。

その2なしで次のテーマに進むのもヨロシクないので、簡単にもう1本採り上げる。「年末年始に観るほっこり映画」というのはちょっと強引か?!

仕事納めのあと、2008年の12月30日頃に観たのがミシェル・ゴンドリーの『僕らのミライへ逆回転』だ。この映画、その年の10月に封切られてテレビCMまで打っていたのだが、客入りがイマイチだったか上映館が減り、都内の三番館であった今は無き(大好きだった!)シネパトス銀座まで追いかけて観た。そしてエンディングで号泣した。

この映画、残念なことにゴンドリー特有のひねくれた物語のためにその骨子が正しく伝わっていない。ほとんどの紹介文は磁気が消えてしまったレンタルビデオショップの店員が、名作映画の数々を自演して取り繕う珍作と書かれている。そしてその自演のときにゴンドリーお得意の「手作り工作」が登場すると。

確かに前半はその通りなのだが、実はこの映画のメインストリーは後半部にある。そしてそれはほとんど紹介されていない。この作品、心温まるジャズ映画なのだ。

自演の『ゴーストバスターズ』や『シェルブールの雨傘』、『ライオン・キング』などの怪作が意外な評判となり、「次は自分たちのオリジナル作品を撮ってみよう」ということになる。そして選んだのがその店の建つ場所で生まれた早世のジャズ・ピアニスト、ファッツ・ウォーラーの伝記映画だ。

この企画に町中の人々が賛同し、住民総出の力作が撮影される。とはいえツメの甘い素人映画、ウォーラー誕生のシーンではものすごい老婆の股間から服を来た5歳くらいの男の子が登場する爆笑演出、いや笑わせるためにやっているわけではなく、本人たちはいたって真面目…というところが爆笑を呼ぶのだ。

しかしなぜかこのダメダメな素人映画も終盤になるとその世界に引き込まれて、ウォーラー急死(彼は人気絶頂の時に列車内で病死している)のシーンではしっかりと悲しさを感じる。出演者や近所の住民を集めての店先での「ワールド・プレミア」は大喝采に終わるが、実はその時に…という本当の結末は死んでも書けない。

そしてエンディングでは立ち退きを迫られていた店が、この上映会をきっかけにどうなったかが描かれる。映画を、音楽を、ジャズを、そして「自分たちの町」を愛する者に向けた、まれにみる傑作映画と断言出来る。

ネットでも紙媒体でも、「自演された名作映画が何本わかりますか?」的な映画マニヤのお遊び作品のように書かれており、この映画、本当に損をしていると思う。

年末に観るならばこんなハートフルな傑作がいい。「色々なことがあったが今年もいい年だった」と、コロっと騙されるからだ。映画に騙される快感、これがイイ。

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