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2016年11月

第69回-年末に観るほっこり映画・その1

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「新年会をやりましょう」と知人にメールし、いつにしようかと思っていたらもう11月も20日を過ぎた。一体どうなっているのだろう?!

さて、子供が生まれる前、まだ夫婦二人で気ままに暮らしていた頃のこと、毎年年末になるとミニシアター系のちょっとした佳作映画を観に行っていた。選択方法はふたつあり、「なぜか年末にはほっこりした佳作が封切られる」という公開に合わせたものと、「数カ月前に封切られていたが見逃していた。どうにか年内には観ておきたい」というもの。今回は前者について書く。

公開日を調べたら2007年の12月22日だった。もう9年も前になるのか。有楽町のちょっとイイ映画館に観に行ったので、公開直後に観たのだろう。作品は『迷子の警察音楽隊』。イスラエル人監督によるイスラエル・フランス合作である。

1990年代初頭、エジプトとイスラエルが「もしかしたら二国は平和に共存出来るのかもしれない」と思われていた束の間の蜜月(?)を音楽を軸に描いた映画。エジプトの警察音楽隊がイスラエルに出来たアラブ文化センターでの演奏を頼まれて飛行機でやって来る。しかし空港に迎えはなく、若い楽団員が聞いた通りに移動すると、荒野の真ん中の辺境の町に…。

バスはすでになく、町にホテルはなく。食堂の気のいい女店主の計らいで楽団員は食堂や女店主の家、そしてなぜか食堂の客の家に宿泊することになる。見ず知らずのエジプト人が、突如イスラエルの田舎町、しかも一般家庭で一晩を過ごすというなんとも摩訶不思議な物語。

ほとんど観た人はいないと思うが、実はこの作品、この年の(国内的にも国際的にもほとんど話題にならない)第20回東京国際映画祭グランプリ受賞作品でもある。しかしいい作品だったなぁ…。

エジプトの音楽隊員は当然イスラームで、イスラエル市民は強固なユダヤ教信者。生活習慣も違えば言葉も通じるような、行き違うような。しかしその昔、イスラエルではエジプト映画-たとえば『アラビアのロレンス』の名優オマー・シャリフの恋愛映画など-が人気があり、また有名なエジプト人歌手-例えばウム・クルスームなど-も知られており、彼らの記憶の奥底にはエジプト人とエジプト文化に対する郷愁が静かに横たわっている。たった一晩の間に、それがじわじわと、昔を懐かしみつつ蘇って来て、本当にぽつりぽつりと会話が始まる。

また第三国の音楽も共通言語になる。客の家に泊まる羽目になった楽団員はまったく会話が成立しなかったが、「サマー・タイム」をきっかけに親交を深めて行く。そして秀逸なのが女店主が語るチェット・ベイカー。堅物この上ない団長が、実はチェットの大ファンでアルバムも全部持っており…というあたりで観客も「おおっ!」と盛り上がる(笑)。

エジプト人でもイスラエル人でも、イスラームでもユダヤでも、家族の問題や音楽や映画に対する想いは同じ…ということをたった一晩の、数名の会話で淡々と描く。こう書いていてもいい映画だったと痛感する。

そして翌朝、一行は無事に演奏会場に辿り着き、見事なまでのアラブ音楽の演奏を聴かせる…シーンでエンドマーク。いや、いい映画だ!

こんな佳作を年末ギリギリに観て、夕方の有楽町駅前に出て、「これは普通の食事じゃないよね」と前から気になっていた渋谷のエジプト料理店に行ってしまった。カミさんも私も煙草を吸わないのに、勢いで水タバコまで試してしまって。翌日アタマがガンガンしたが、あのエジプト料理店ももうないんだよなぁ…。

先日のリオ五輪ではエジプトの柔道選手がイスラエル選手の握手を拒否したとかで一揉めあった。この二国の関係は一口には語れないが(エジプトはイスラム圏でイスラエルを認めている珍しい国の筈なのだが)、ふたつの大国の関係を音楽隊と市民で描いた佳作で観るのもまた一興。DVDも発売されているので、この年末にご覧になってはいかがでしょうか。

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