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第26回-ブラジル映画祭その1・エリス・レジーナ賛

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ブラジル映画祭2012の東京会場の初日に行った。観たのは『エリス・レジーナ ~ブラジル史上最高の歌手』と『バイアォンに愛を込めて』の2作品。まずは1本目、『エリス・レジーナ』について。

私はエリス・レジーナのファンで、賛否両論だった彼女のヴォーカルには全面的に賛同、支持する。そして「ざまぁみろ」とも思う。どういうことか?

今の日本ではボサノヴァやMPBなどのブラジル音楽は「おしゃれアイテム」のひとつと数えられるフシがある。「おしゃれ女子はボサノヴァを聴くべし」的なムードがあり、実践もされているようだが…そんな彼女らが、どうやらエリスは苦手らしい。もちろん全員が苦手ということはないと思うが、実際に「ボサは好きだけどエリスはちょっと…」という声を何回か聴いたことがある。

そんなおしゃれアイテム的にブラジル音楽を扱う人々に対して、「ざまぁみろ」と思うのだ。エリスの音楽はおしゃれの道具ではない。本当に音楽が好きな人のための、歴史的な宝物である。
ウルグアイとの国境近く、南リオグランデ州の州都ポルト・アレグレ出身のエリスは、ともかく、天才的に、どうしようもないくらいに歌が巧いが、アップテンポの曲を歌うときにあまりにパワーが溢れすぎてしまうところ(時にそれは田舎臭くも見える)や、元の譜割りがわからないくらいのフェイクなど、よほどの音楽好きではなければついてこれないような歌唱が少なからずある。そしてそれらが現代のおしゃれ少女たちを遠ざけている原因かもしれない。

しかし今回上映されたドキュメンタリー映画、『エリス・レジーナ ~ブラジル史上最高の歌手』を観ると、彼女のそうしたヴォーカルがいかに絶妙なバランスの上に成り立った、天才的なテクニックに裏打ちされているかがよくわかる。

ドキュメンタリー映画といっても1973年にブラジルで2回にわたって放映されたライヴ番組を繋げたものだ。番組は白黒で、セザール・カマルゴ・マリアーノ(p)をリーダーとするピアノトリオとヴォーカルのエリスにだけスポットライトがあたる印象的な画創りがなされている。カマルゴ・マリアーノは私生活においてもエリスのパートナーだった人物で、この2人の間に生まれたのがマリア・ヒタ(vo)である。
曲の合間に自分の出生やまわりのミュージシャンについて静かに語るエリス。そして思い出したように曲を歌う。余計な演出は皆無で、観客はエリスの音楽と99分間、まさに「対峙」することになる。

私も妻もエリスの大ファンで、何枚ものアルバムを持っているため、「早世したエリスの歌唱シーンを確認に」というつもりで出掛けたが、とんでもない! 聴き慣れた、いや、世界中の人々が知っているであろう有名曲でも、驚くような発見が次々あった。

例えば彼女の代表曲のひとつ「ウッパ・ネギーニョ」(エドゥ・ロボ作)を、エリスは「やりすぎではないか?」と聴いている方がヒヤヒヤするくらいに譜割りを崩して歌う。まるで4拍子の曲に合わせて3拍子の曲を歌うような…ポリリズムのような歌唱法だ。しかしこれが楽曲として崩れることはなく、上述の通り絶妙なバランスの上に成り立っているのだ。

そしてここにもうひとりの天才、トム・ジョビンが加わると…「三月の水」の名唱が誕生する。あのたたみ込むようなトム・ジョビンのメロディを、ギリギリのタイム感で歌うエリス。鳥肌の立つような体験だ。「この巧みさがエリスの最大の特徴だったか」と、いまさらながら知らされる。音楽好きが観ると、まずそこに注目するだろう。

元々こうした譜割りの崩し方はボサノヴァの手法のひとつで、ジョアン・ジルベルト(g,vo)の来日でも何回も聴いている方がヒヤヒヤする場面があったが(苦笑)、エリスのそれは、完璧に計算、いや、彼女の体内のリズムで完全にコントロールされている。

もちろんこうしたリズムのことだけではない。極端なまでのロング・トーンやビブラートも、巨大なスクリーンを前に対峙して聴くと実に微妙な、まるで限りなく薄いガラス細工のように思える。エリスのヴォーカルとは、こんなに繊細なものだったのか…。

『エリス・レジーナ ~ブラジル史上最高の歌手』というタイトルは、ドラッグと酒でボロボロになった彼女がステージに立ち、聴衆からブーイングを受けたとき、カエターノ・ヴェローゾが飛び出して来て「ブラジル史上最高の歌手に失礼なことをするな」と黙らせたという逸話に基づいているのだろう。
「天才が天才であることを理解するのは難しい」と言われるが、この映画を観ると、エリスの天才さがかなりわかる。そんな貴重な一本だ。
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