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第30回-幻の(?)韓国映画『GO GO 70s』-その1

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韓国エンタメ評論家のブログだったかツイートだったかで知り、長い間「観たいなぁ」と思っていた映画をDVDで観た。レンタルが見つけられなかったので購入してしまった。2008年公開の『GO GO 70s』である。いやハングルで『고고70』と書いた方が気分か?

お正月用として年末に購入。夫婦で楽しんで「詳しくは解説で…」と思ったが、なんとこのDVD、ディスクが1枚入っているだけで解説も付いていなければ、特典映像もない。ならば自分で調べて書いてしまおう。というわけで、日韓両方のWebで収集した『고고70』の情報を少々。

物語は1972年の米軍基地の街、大邱で始まる。米兵相手にカントリーなどを演奏していたサンギュ(チョ・スンウ)は、ギターの達人マンシク(チャ・スンウ)と組みハードなソウルバンド「デビルズ」を結成。大邱を飛び出して首都ソウルに向かう。そしてバンドと一緒にライブハウスの厨房で働く女の子ミミ(シン・ミナ)もついてくる。

ソウルで行われた「プレイボーイカップ・グループサウンド競演大会」に出演するが、大都市ソウルではサイケデリック・サウンドやハードロックが人気で、ソウルサウンド一辺倒のデビルズはウケない。ソウルなのに(Soul-musicとSeoul-cityはもちろん劇中でもネタにされている)。
しかし彼らの熱演は特別賞と副賞の業務用小麦粉25kg、そして「週刊ソウル」文化部長イ・ビョンウク(イ・ソンミン)の支援を勝ち取る。イ部長は音楽評論家で、韓国ロック界のドンでもあるのだ。

その後も芽が出ないデビルズだったが、民謡歌手のシングルのB面に吹き込んだド派手な民謡ロックがイ部長の目に留まり、大韓民国初のゴーゴークラブ<ニルバーナ>で演奏するチャンスを得る。
しかししかし、ここでもスターはサイケバンドの「フェニックス」などで、デビルズの人気はジリ貧であった。

そんな彼らを見かねて、大邱からついてきたミミがステージの前で踊りだす。最初は「なんだこの女は?」と奇異な目で見られていたミミだが、次第に「もしかしたらコレってカッコイイかも」と踊りだすものが出始め、そこに目を付けたイ部長はミミをモデルに撮影したダンスの教則本を作成。<ニルバーナ>の入口でこれを配ると…場内は熱狂のダンス天国に!

ところが良いことは続かない。あまりの盛り上がりに当時の軍事政府が目をつけ、ゴーゴー禁止令、ミュージシャンの収監…イ部長も自らの身の安全と交換に、公務員として退廃歌謡のリスト化や摘発を行う立場に。

「音楽が演奏出来ないくらいなんでしょ?」-とんでもない!1970年代初頭から中盤の韓国といえば、ほぼ恐怖政治。収監されたミュージシャン達は精神改善のため強烈な拷問を受ける。デビルズは、ニルバーナは、それで終わってしまうのか?…

という映画である。大事なことを書き忘れた。このデビルズは実在のバンドで、いま書いた物語の何割かは実話である。

ともかく驚くことばかりだ。大韓民国ロックについては、根本敬氏の著作などを通じて、少なからず知っているつもりだった。'77年デビューのサヌリム、伝説のバンド白頭山、そして韓国の遠藤賢司+内田裕也ともいうべき申重鉉などなど。ポンチャックも大好きで李博士は20年以上前から韓国盤で持っていた。
しかし、いま書いた70年代初頭の韓国ロック事情、米兵向けの基地の街のロッカー達や、サイケ、ハードロック人気、そして日本と同様(と言いつつ微妙に数年遅いようにも思うが)の「グループサウンド競演大会」など、全く知らなかった。

大韓民国の'70年代初頭-韓国の歴史の中では謎の多い、日本人にとっては(隣国の過去をこのように書くのは申し訳ないが)恐怖政治に近いイメージを抱かざるを得ない時代だった。'71年の大統領選では、軍人出身、というか'61年の5・16軍事クーデターから大統領となった朴正煕が、野党新民党の金大中と争い三選。金大中はこの大統領選の直後、交通事故を装った暗殺工作に遭い、そして2年後の'73年、韓国中央情報部 (KCIA) によって東京滞在中に拉致される「金大中事件」に発展する。
朴正煕の身辺も穏やかではない。'74年8月15日、日本統治からの解放を記念する光復節式典中に夫人の陸英修が頭部を撃たれて死亡。そして朴正煕自身も'79年10月に側近だったKCIAのトップにより宴席で射殺。理由は私怨だったと言われている。この朴正煕、陸英修の娘が今年の2月に大統領となった「悲劇の娘」こと朴槿恵である(日本ではあまり知られていないが、その朴槿恵自身も2006年5月ソウル市内での遊説中に暴漢に襲撃され右頬に深い傷を負っている)。

この時代の韓国を描いた映画といえば『KT』(02)、『ユゴ 大統領有故』(06)、『大統領の理髪師』(04)など。当時の彼の国の冷徹さを描いた『KT』、『ユゴ』も衝撃的だったが、敢えてヒューマン・コメディの手法を採った『大統領の理髪師』にあった、密告合戦の末に近所の一般市民がごっそりと姿を消してしまう場面こそ戦慄だった。

そんな時代のソウル・ミージックとゴーゴークラブの物語である。もう、たまらなく嬉しくなる。クーデターと暗殺と誘拐の国に、ゴキゲンなソウル・バンドがあり、オーティス・レディングやアイザック・ヘイズ、ウィルソン・ピケットを、「ソウルマン」や「ムスタング・サリー」、そして「ダンス天国」や「I've Been Loving You Too Long-恋をしすぎた」を一晩中、狂ったように演奏していたかと思うと。
当時の韓国は夜間外出禁止令下、深夜0時から早朝4時までまでは医師以外の民間人の外出が出来ないが、ゴーゴークラブ内で踊ることは(かろうじて)可能だった。むしろ外出禁止令を逆手にとった「商法」でもあったのだ。

あらすじと背景を書いただけでこんな長文になってしまった。検証をしたかった実話部分と演出については次回。それにしてもこんな素晴らしい映画、なぜ日本で劇場公開されなかったのだろう…(福岡国際映画祭2009で上映され監督のティーチ・インもあったが)。
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